閉じた瞼の裏に、トンネルのライトの光が当たる。
蛍光灯だろうか、もうLEDになっているのだろうか、くり抜かれた山の中を煌々と照らしている。
遠くに行こうよ、と仕事が終わったタイミングで助手席に詰め込まれて。
時速100キロでいくつもトンネルを通りながら、最終的にどこへ行くのかを私は聞けなかった。
ちょうど台風が上陸していて、時折強い雨粒が、窓や車の上で弾ける。
時間が経つにつれ勢いは強くなって、水の中を走っているようだった。
まだしばらく走るから寝てなよ、と言われて目を閉じる、けど眠れない。
眠れるわけがない。
休憩、と入った聞いたことのない名前のSAは賑わっていた。
いつもは、というかカーテンが締め切られた長距離バスの中しか知らないので、大きなライトが眩しいのも、車の音がうるさいのもほとんど初めてだった。
眠れない、寝ようと思うとますます眠れない。
せめてアルコールでも飲めれば、と思ったけど、運転ができないのにそんなことは言えない。普通。
気がつくと後部座席から小さい寝息が聞こえて、悲しくなる。
残酷なことをしている。私たちはきっと残酷なことをする。
どうしてこんな場所にいるんだろう、眠気は瞼を重くする、だけど眠れない、脳もどろどろして、
「ラーメン食いてー」
騒々しい、若い男の声で目覚めたふりをして、体を起こす。午前4時は当たり前に夜で、早く朝になればいいと思った。眠れない夜は早く終わってほしい。
*
「まだ自分が行ったことのない県に行ってみたいと思って」
薄らと朝になる頃に到着したのはそんな理由で選んだ場所で、もちろん私も行ったことはなく、ひたすらに遠いところにあった。遠すぎて、選択肢にも入らないような。
目的地以外は平地にも山にも特産の果物の木が植えてあった。あとは、ほとんど何もない。
ぽつりぽつりと民家と、作業小屋、たまに重機があるだけで集合住宅は1棟も見つけられなかった。
遠くに見える山にも、高速道路沿いの山にも普段住んでいる片田舎ではほとんど見られない雲海がかかっていて、柄にもなくはしゃいでみせると、やっとテンションが上がったみたいでよかった、と笑った。
*
帰り道は天気も落ち着いていて、道路も空いていたのであっという間だった。
「2泊くらいしようかと思っていたのに0泊になった、ごめんね」
結局、どのタイミングでもほとんど眠っていなかったので、こういう時に感情が追いつかない。
何がごめんねなんだろう、たぶん、きっと悪いとは少しも思っていないのに。
行き先も食べたいものも託したのは私なのに。
こういうとき、例えるなら自分は食後に惰性で食べる、安いアイスみたいだと思う。
最初はおいしいけど、最後の方は食べなくてもよかったな、なんて。余計なカロリーでしかない。
*
部屋に帰ると、髪は最後に使ったシャンプーの匂いと、普段と違う、きしきしした手触りがした。
2日ぶりにアルコールを胃に入れると、急に感覚がはっきりする、それは悲しいとかさみしいとか、もっと一緒にいたかったとか、そういう気持ちではなくて、楽しかったはずなのにそれを否定しなくてはいけないような、
そもそも2回の夜の間で交わすには多すぎた言葉が急に押し寄せて混乱する、はっきり混乱している、可愛いも好きもないのに、嘘でもそう言ってくれたらよかったのに、
なんて、急に自分に酔っているような気がしてグラスの残りを流す。きもちわるい。
帰路は落ち着いていた雨が、また強く降り続いている。携帯の電波を切って、眠る。